胸ばかりが太らない








、おまえなんか顔丸くなってねえ?」


言った瞬間に「しまった!」と思ったけど、時既に遅し。

は飲みかけの豆乳を握りしめたまま教室から脱兎の如く逃げ出した。



「岩泉くん、鬼だ!」「デリカシー無さ過ぎ!」「女心わかってない!及川くんを見習ってよ!」

周りの女子から次々に非難の声があがって教室は騒然となる。

「岩泉!やばいぞ!女子を敵に回すな!早く謝りに行け!」

男連中から強引に教室を追い出され、これは謝って連れて帰ってこないと治まんねえなと悟る。


…言われなくても謝るしかねえだろ、あんな傷ついた顔の初めて見たし。

…つーか俺ほんっと、くっそ!







裏庭の植木の隅の死角。

が逃げ込むとしたらここしかねえって場所を俺が知っている理由はただ一つ。

俺がを好きだから。…片思いだけどな!ずっと見てるから顔の変化とかもついつい気になんだよ!

あーでもさっきのはほんと失言すぎた。


裏庭に着くと、は定位置の隅っこに座って豆乳を飲んでいた。

…目が赤い、泣いたのか。うわ、俺最悪。





「…なによ!顔の丸い女にバレー部のエース様が何の用よ?!」

「いや、悪かった!泣かせるつもりはなかった!すまん!」

「泣いてないし!勘違いするな!泣いて…」

「泣いてるだろーが!つーか、さっきの深い意味ねえし、おまえ元々あれだ、痩せてるから少しくらい顔が丸くなったって…」

「…やっぱり太ったんだ、鈍感でデリカシーの無い岩泉にわかるくらいわたし太ったんだ…」


鈍感?!デリカシーが無いっつーのはさっきの失言で否定できねえけど、鈍感?!


「で、でもおまえ最近すげえ唐揚げ食ってただろ?あんだけ食ったらそりゃ少しは丸くなるだろ」

「『おっぱい大きくするには鶏肉だべ、ちゃん』っておばあちゃんが言うから!」

「…は?お、おっぱい?」

「…わたし胸小さいからどうしても大きくしたくて…でも鶏肉食べたら大きくなるなんておばあちゃんの勘違いで」


…ばあちゃんの知恵袋おもっくそ役立たずか。


「気付いた時には体重増えまくってて、しかも顔とおなかにお肉ついただけで胸には全然つかないし…」

「お、おお…」

「豆乳だって朝昼晩飲んで、お風呂でもそれこそ授業中だっておっぱいマッサージしてさあ」

「あ!あの変な動きマッサージだったのか」

「変な動きって言わないでよ!わたしの努力なんだったんだっつーのよ!」

「なんでそんな胸がでかくなりたいんだよ」

「……」

「なあ」

「…………好きな人が、胸の大きい子が好きだから」

「!」


好きな奴がいたのか!誰だよくっそ!…まさか及川じゃねえだろうな…及川だったら最悪だ!及川以外!!

ああでも俺をじゃねえ時点でもう誰でも…ああ!でも及川は絶対無し無し無し!!!


「だけどダメだった…太っただけだよ…無駄だった…しかも好きな人に太ったって言われるし…」

「…おまえなんでそんな男好きになったんだよ」

「てゆうかさあ!」

「お、おお!おまえ声でけえな…!」

「…岩泉じゃん!!」

「…は?」

「岩泉の事だよ!無類の巨乳好きのおっぱい星人!」

「はあ?!」


…俺が?

…俺が無類の巨乳好きのおっぱい星人??

青城バレー部一のストイックマン(自称)の俺が?!



「ちょ、だ、誰がそんな事言ったんだよ!」

「…及川」





あ  ん  の  ボ  ゲ  エ  … !






「『巨乳ものは岩ちゃんから回って来るんだ、あの人巨乳マスターなんだよ!意外デショ!』だって!」


確かに巨乳は嫌いじゃない、でもそれはエロネタに関してだけだ!

クソ川め!余計な事言いやがって…!


…いや、ちょっと待て俺、おっぱい星人発言で流したけどその前にめちゃくちゃ重要な事言ってなかったか?

が、俺の事好き、とかなんとか。


「わたしの胸なんかどうせ…うう…」



「なによ…」

「胸触らせろ」

「…は?」

「いいから俺にまかせろ。、動くな」

「ちょ、岩泉、え?」


我ながらなんて大胆な事してんだって思うけど、でもの誤解を解く方法はこれしか思いつかない。


「…胸なんかな、手のひらサイズで十分なんだよ」


若干手が震えてる事を気付かれない様に、そっとの胸の上に手を重ねる。


「…手のひらサイズ?」

「…そうだよ、…あれ?」


「「……」」




………。





俺の手のひらまで、あと数センチ足りないの胸。


「…手のひらサイズも無いじゃんよ」

そう言いながらまたジワジワとの目から涙が溢れてくる。

「ち、違う!これは、おまえの胸が小さいんじゃなくて俺の手がでかいんだ!」

「…嘘だあ」

「嘘じゃねーし!…それに、好きな女の胸だったらでかかろーが小さかろーがそんな事どうでもいいだろ?」

「…そうなの?」

「そんで、俺はのこの胸が好きだ」

「岩泉…」

「なんだよ」

「わたしも…岩泉大好き!」



勢いよく抱きついてきたがかわいくて、力いっぱい抱きしめたら「…岩泉、死ぬ」と肩をタップされた。


「加減がわかんなかった、悪い」

「死ぬほど嬉しいって意味だったんだけど?」

「!」

「岩泉顔赤ーい!」

「…いいから教室戻んぞ!」




とりあえず部活行ったら速攻及川しばいて、それから彼女出来たぞざまーみろって自慢してやろう。






おわり