いつも私のことを可愛いと言ってくれる侑士。だけど自分ではちっとも可愛くないって分かってる。周りの子に比べたら地味だし、パッとしないし華もないし。だけど侑士は笑って「俺はありのままのが好きやから」と言ってくれる。その度に私は「ああ、侑士は私のことが好きなんだ」って実感する。だけどこの間、廊下で女の子たちが話しているのを聞いてしまった。


「忍足くんって、脚の綺麗な子が好きなんだってー」


 初めて聞いた、侑士の好みなんて。私が髪の毛を2つに結んでも、デートでジーパンを穿いて行っても、いつも「今日もはかわええな」と言ってくれる。だから侑士の好みなんて今まで気にしたこともないし、考えもしなかった。だけど侑士も男の子。やっぱり好みってあるんだよね……。
 私は制服のスカートから出ている2本の脚を見た。短い。圧倒的に短い。お世辞にも長いとはいえない長さ出し、小学校から陸上をやっている所為か、ふくらはぎが大きい。モデルのようなスラっとした脚でもないし、私の脚はきっと侑士の好みには当てはまらない。
 自分の脚の不細工さに失望し、教室に戻った。自分の座席に座り、スラっと脚を伸ばしていると、前の席に座っている友達が「脚、どうかしたの」と訊いた。


「ねぇ、私の脚って綺麗?」
「はぁ、急にどうしたの?」


 私の突拍子もない質問に、眉をひそめた友達は、脚をしげしげと見て「うん、陸上が得意そうなたくましい脚をしている」と言った。……綺麗ではないんだね。がっくりと肩を落とすと、私の顔を覗きこんで「なんか変だよ、」と言った。


「さっき廊下で侑士の好みは脚の綺麗な子って話しているのを聞いて……」
「それで自分の脚を見てたの?」


 ゲラゲラと大笑いして言った。そんなに笑わなくったって、私にとっては深刻な問題なのに。プッと頬をふくらませると、友達は腕組みをして「じゃあ直接彼氏に聞けばいいじゃん」と言った。


「でも、聞けるわけないよ」
「何で?彼氏なのに?」
「だって……もしも本当に脚の綺麗な子が好きだって言ったらショック受けるっていうか、もう立ち直れない気がするから」
「じゃあさ、試しにデートの時ミニスカート穿いていけばいいじゃん!」


 名案だ、と言わんばかりに友達は言った。デートの時にミニスカートを穿いて、脚を褒められたらやったね!何も言われなくても、好きな子の脚を見れたら男の人って嬉しいんじゃないの?というのが意見だった。
 確かに、直接聞くよりもダメージは少ないかもしれない。私はその作戦を今度のデートの日に決行することにした。しかし普段からジーパンやロングスカートが多いから、ミニスカートなんて持っていない。その日の帰りに本屋でファッション雑誌を立ち読みし、勇気を持って穿けそうなスカートをリサーチした。そしてデートの前日にスカートを購入。友達に甘えて、スカートに合う洋服を全身コーディネートしてもらった。
 そしてデート当日。駅前の広場で私は侑士を待った。初めて穿いたミニスカートはやっぱり落ち着かない。スースーするし、おしりが見えちゃわないか心配。しきりに裾を直していると、侑士が手を振りながらやって来た。


、お待たせ」
「ううん、私も今来たところだよ」


 そう言って立ち上がると、スカートから伸びる脚を見て、侑士は「おぉ……」と目を丸くした。やっぱり似合っていないんだろうか。スラっとした脚でもないし、見苦しいんじゃないのかな。冷や汗をかきながら侑士を見ると「めっちゃ可愛い」と予想外の言葉を漏らした。


「か、可愛いの?」
「めっちゃ!がミニスカ穿いたの初めて見たわ」


 ジロジロと見られると恥ずかしい。


「なんか洋服もいつもとちゃうし、今日めっちゃ可愛いな」


 そう言って頭を撫でられた。褒められた……のだろうか。凄く嬉しい!友達に見立ててもらった洋服は、ボーダーのトップスに黄色のカーディガン。そして緑のミニスカート。ブーツは自分の持ってるものを合わせたコーディネート。私は「そうかな?」と調子に乗って一回転した。更に囃し立てる侑士。端から見ればとんだバカップルだ。だけどこんなにも喜んでくれる侑士を見て、浮かれずにはいられなかった。
 私達はひと通りふざけて、目的の映画館へ向かった。侑士は普段部活で忙しいから、こうしてゆっくりデートに行くことは滅多に無い。今日は侑士が見たい映画があると言ったから、その映画を見に行くことにした。映画館は公開初日ということもあって、満席状態だった。辛うじて座れた席に腰を下ろし、上映されるのを待った。


「人多いな」
「そうだね。結構話題だったし人気だねー」


 なんて話していると、徐々に館内の照明が暗くなり、フィルムが回り始めた。映画は話題の漫画を原作にした恋愛もの。最初は見入っていたが、段々と館内の空調が寒く感じられ、しきりに顕になた太ももをこすった。ロビーでひざ掛けの貸出をしていたけれど、大丈夫だと高を括ってしまった。カーディガンを脱げば今度は上半身が寒いし。どうしようと悩んでいると、隣からそっと膝にジャケットをかけてくれた。


「侑士……」
「寒そうやから、俺のかけとき」


 極力声を潜めて短い会話をする。ありがとうと頭を下げて、侑士のジャケットを太ももの上まで上げる。ほんのりと侑士のぬくもりが感じられる様な気がしてドキドキした。そして映画も終わり、近くのカフェでお茶をすることにした。窓際の席に座り、私は紅茶をすする。


「映画おもろかった?」
「うん!漫画も読みたくなっちゃった」
「そしたら漫喫でも行く?」
「あー、でもそしたら門限過ぎちゃうかも」


 私は腕時計を見た。この後ご飯行くつもりだったし、漫画喫茶まで行ったら門限を破ってしまう。侑士は「したら仕方ないなあ」と言って眉を下げて笑った。何だか申し訳ない。ばれないようにため息を吐いて、窓の外を見た。
 スラっとした脚の女性が歩いている。自分の脚と咄嗟に比べてしまい、またため息を吐いた。しかし今度は侑士にバレてしまったのか「どないしたん?」と私の顔を覗いた。


「侑士って、脚の綺麗な子が好きなんでしょ?」
「え?」
「でも私の脚って全然綺麗じゃないでしょ」
「いや、?」


 ハッとして侑士の顔を見た。思わず口からこぼれていたのか。凄く心配した顔をして、侑士は「そんなことないし、どうないしたん」と言った。


「この間学校で、侑士の好きなタイプは脚の綺麗な子って聞いたから。でも私の脚って綺麗じゃないから、侑士どう思っているのかなーって」
「それで今日ミニスカ穿いてきたん?」


 私は黙って頷いた。


「確かに昔、足の綺麗な子が好きって言った気ぃするなあ」
「やっぱり……」
「いや、でも適当に言ったやつやし」


 適当に言ったとはいえ、いくらなんでもピンポイントすぎる。普通なら「性格のいい子」とか「かわいい子」とか言うんじゃないの。複雑な気持ちでいる私に、侑士は「俺はのことが好きやねんから、好みとか気にせんでええねんで」と笑った。


「でも、女の子って男の子の好みに合わせたいっていうか……やっぱり気になっちゃうんだもん」
「もうは可愛いなあ」


 そう言って侑士は頭を撫でた。


「ねえ、私の脚って侑士の好み?」
「せやで」
「でも短いし、ふくらはぎだって大きいし」
「そんなところも好きやで」
「全然綺麗じゃないよ」
「そんなことない」
「そんなこと……」


 じっと見つめる瞳に吸い込まれそうになり、私は言葉の途中で目をそらした。前に侑士が言ってくれた「俺はありのままのが好きやから」という言葉を思い出した。侑士がそう思っていてくれるのなら、別に気にしなくてもいいのかもしれない。


「なあ、
「何?」
「ミニスカ可愛かったから、また穿いてきて欲しいな」
「え……」
「折角綺麗な脚やのに、隠しておくの勿体無いで」


 ニッコリと笑ってそう言った。


「それに、の脚を見れるのって彼氏の特権やん?」


 女の子って本当に単純。こうしておだてられると、またミニスカート穿いて行こうって思っちゃうんだから。今度は侑士の好みの服をリサーチしてデートに行こうと思った。